アブサン研究室 -La Vie en Wormwood-

アブサン愛飲家が、アブサンの魅力を語るブログです。アブサンが飲めるバーで実際に飲んだ感想やアブサンが印象的な映画などについて掲載します。

【アブサン×本】『スポールティフな娼婦』吉行エイスケ

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こちらの短編作品集より、アブサンが出てくる小説に出会えたのでご紹介します。

 

【スポールティフな娼婦】

吉行エイスケ

 

あらすじ
舞台は横浜。巡洋艦アメリカ号が投錨し、賑わう港町。自由気ままで享楽主義の娼婦マリが繰り広げる騒動の数々と周りの人間関係を綴った物語。


アブサン×スポールティフな娼婦
この作品では娼婦マリを含む登場人物のギラギラと輝く(それは決してキラキラではない、、、)逸楽・・・そしてそれに溺れて衰退、浮上していく描写が印象的だった。
舞台となる横浜では外観の美を競うかの様にホテルやビルが空虚にそびえ立つ。そして夜の街で起こった3つの事件。
この作品が世に出されたのは昭和5年であるが、この頃の日本の生活は電気やガス、水道が引かれるようになり、世の中が少しずつ便利になってきた時代であるが、第一次世界大戦を終えこの小説はまさに徐々に忍び寄る第二次世界大戦に巻き込まれる日本の衰退を表している様に思う。
そして当時のアブサンは悦楽と退廃の魅惑のお酒のイメージがやはり強く、幻覚などの神経作用を引き起こすとされていた。ゴッホやロートレックが愛飲し、そこからインスピレーションを得ようとする退廃的なイメージのあるお酒だと定着していたようだ。
この小説でも、夢か幻か、話す言葉ももはや噛み合っているのかどうかわからない状況の中でアブサンが出てくる。アブサンぐっとあおるシーンがあるのだが、それ以降はこの混沌とした状況をさらに加速させる様な雰囲気を感じさせる。

 


著者について
吉行エイスケ(1906年〜1940年)
岡山県出身。在学中にアナーキズム、ダダイズムの影響を受け16歳で中退し、執筆活動を始める。日本のダダイスト詩人であり小説家である。雑誌「ダダイズム」を刊行する。長男は同じく作家の吉行淳之介である。
1997年には妻である吉行あぐりの「梅桃が実るとき」がNHKの連続テレビ小説で放送され、夫の「エイスケさん」も注目された。新興芸術派の旗手と注目を浴びるが1933年には断筆し、1940年に狭心症の為34歳で急死。

 


ダダイズムとは
1910年代半ばに起こった芸術思想、芸術運動のこと。これまでの伝統的な欧米の文明を否定することで、社会的、道徳的に縛られず、精神を解放することを目指したものであり、「理性」を否定して「無意識」を重要視したと言われている。スイスのチューリッヒで起こり、フランス人詩人のトリスタン・ツァラの「ダダ宣言」によって世界各地に影響を与えた。
絵画ではランダムなコラージュ、文学では文章を細かく切り取った詩等、無意識の美を目指していた。

 

今回紹介した短編小説はこちらの作品集に収められております。夏目漱石や太宰治(彼もアブサン愛飲家として有名ですね)芥川龍之介、梶井基次郎など名だたる文豪達がビールやウイスキー、酒に思いを托し描かれた作品が詰まっております。


出典

https://aozorashoin.com/author/43

 

http://blog.livedoor.jp/kokinora/archives/1017001727.html